動物行動の映像データベースについて


動物の行動と映像

これまで

動物の行動について知りたいとき、まず最初にしなくてはいけないことは、その行動をしっかりと記述する事です。現代では、ビデオカメラの普及により、様々な動物の行動を映像に収める事が簡単に行なえるようになってきており、動物行動の研究者も日常的に映像を利用するようになってきています。そしてその中には学問的にとても重要な映像がたくさんあります。しかし、そのような映像を公表する機会はあまり多くありません。その数少ない機会の一つに学会発表の場がありますが、多くの場合、発表に使われた映像はその後個々の研究者の手元に留まる事になり、第三者がその映像を参照したくても難しいというのが現状です。

また研究者は、動物の行動について書かれた文献を読むこともあります。しかし、その文献に詳細に描かれた図が添付されていたとしても、紙に書かれた情報だけで、その行動が本当にはどのようなものであるかをイメージすることは難しいといえます。

データベースのねらい

そこで本データベースは、各個人(研究者であるないに関わらず)のもとに私蔵されている(死蔵されている?)動物の行動に関する興味深い映像を集め、Webを利用して公開する事を目的とした登録型のデータベースとして作られました。私たち(データベースの運営組織)は、Make Our Movies Openをこのデータベースのスローガンにしており、この計画をMOMOプロジェクトと呼んでいます。私たちはMOMOプロジェクトによって、映像を用いた研究成果の公表とその参照がこれまでより容易になる事を、また動物の行動に興味を持つ全ての人のコミュニケーションがスムーズに進む事を願っています。研究成果の公表については、映像論文といった形式が可能かどうかについても検討を進めています

MOMOと理科教育

私たちはこのプロジェクトを進める中で、MOMOを作る意義は研究だけにあるのではないことに気がつきました。MOMOは教育にも重要な意義を持つでしょう。最近は理科離れがよく問題とされていますが、理科的なこころを支えるもの、それは 「!」、すなわち「驚き」だと私たちは考えるようになりました。その点で、動物の行動の映像は、その学術的な意味について正確な理解をしていない人に対しても驚きの気持ちを抱かせるのに十分強い力を持っていることから、理科離れを食い止める武器になりうると私たちは信じています。もちろん、MOMOに収められている映像は、あくまで映像に過ぎません。教育という点から見れば、、物が生息している場所に行って、ライブで生きている姿を目にする事の方が、ずっとよいでしょう。その意味でMOMOは教育のゴールではなく、きっかけとして機能する物だと私たちは考えています

もう一つ、私たちはMOMOに登録された映像は教育・研究の目的に限り無償で二次利用する事を認めています(著作権を放棄したわけではありませんが)。このことによって、意欲ある生物の先生たちがこれまで以上に面白い教材を作る手助けができるのではないかとも考えています。MOMOの企画に携わっている人間には大学で教鞭を取る物が多いのですが、大学の講義でも同様で、このような映像を利用することで、学生の興味を強く引きつけられるのです

楽しさ

私たちが考えるもう一つのMOMOの意義、それは娯楽です。「動物が動いているのを見るのは楽しい」。これだけでも、私たちはMOMOを作るのに十分だと考えています。

登録型データベース

このようなMOMOですが、決して私たち運営組織の力だけではよいものにはならないでしょう。世界には多様な動物が生きており、それぞれの動物が多くの行動を日々行なっています。これらを限られた数の人間だけでカバーする事は到底不可能で、多くの(プロアマを問わない)方々が日々行なっている観察を集める事で、初めて動物行動の多様性の全体像を掴む事ができるようになります。そのために、MOMOは登録型のデータベースなのです。

オープンであること

Make Our Movies Openというスローガンの意味は、一つには「研究者が持っている映像を公開しよう」ということです。でも、もう一つ意味があります。それは「どんな人からの登録も受け入れよう」というものです。科学は本来、すべての人に開かれていて、誰でも同じように考える事ができ、誰が考えても同じ結論にたどりつけるはずのものでした。しかし、今の世の中で科学を行おうとすると、ばく大な研究費と事前の訓練(とペラペラの英語力)が必要な場合がほとんどです。つまり、現代では科学的行いは一部の人の特権になりつつあります。

これはあまり好ましい事態ではないでしょう。子供たちから理科的こころが失われつつある事とも、ひょっとしたら、何か関係があるのかもしれません。

一方で、動物行動学では極端な話、ノートと鉛筆(と素敵なアイデア)さえあれば、研究費なんて一円もなくても、一流の学術誌に論文を発表する事ができます(英語力は必要ですが)。高校生くらいになって、適切な指導さえあれば、世界的に注目される事が可能な分野なのです。さらに、動物行動学の研究成果を理解する事は、おそらく理論物理学の研究成果を理解するよりずっと簡単でしょう。映像を使ってコミュニケートできるとなればなおさらです。

そんなわけで、動物行動学は今でも多くの人に開かれており、よい意味でのアマチュアリズムが生かせる分野なのです(動物行動学が、多様な生物を相手にする自然史学の一分野である事もその理由の一つですが)。そんな動物行動学分野で登録型データベースを作るのですから、登録する人の資格を制限する理由はありません(とはいえ、ふざけた登録を行われると困りますので、登録するためにはデータベースの会員になってもらう必要があります)。

「私の持っている映像なんて学問的価値はあまりなさそうだから登録できない」なんて思わないでください。例えばデータベースに収録されているペリカンの吐き戻しの映像。これは今の動物行動学では、解釈がとても難しいもので、学問的価値はまだよくわかりません。でも、この行動の意味がわからないからといってせっかくの観察を闇に葬ってよいのでしょうか。わからないならわからないままでいいから、誰にでも見えるところに置いておく。そうすれば、そのうち誰かがうまく解釈してくれるでしょう。そうして、この世の謎がまた一つ解けるのです。それから、教育の観点からすれば、なにげない動物の映像のほうが学問的価値の高い映像よりも必要とされるということもあります。

ですから、私たちはできるだけ広く登録の門戸を開けておきたいと考えています(ただし、おふざけの登録、例えばペットを自慢する映像の登録などは困ってしまいますが)。もし、「本当にこんな映像を登録してもいいだろうか?」と迷っておられるなら、とりあえず登録作業を行って私たちに相談してみてください。映像はいったん仮登録された後で運営組織の人間が目を通しますので、相談の上で本登録の前に取り下げる事も可能です。また、「映像はあるのだけど、生物の学名がわからない」という場合もお手伝いできるかもしれませんので相談ください。

もし、このデータベースのことを気に入ってもらって、お手元に動物の行動を収めた映像をお持ちならば、是非その映像を登録してください。そんな一人一人の登録の積み重ねがこのデータベースを成長させ、よりよいものにする原動力になるのです。

データベースの運営

運営組織

このデータベースは動物学、特に動物行動学を専門にする研究者有志によって運営されています。その多くは日本動物行動学会の会員であり、日本動物行動学会および学会が発行する国際誌Journal of EthologyとMOMOは連携をとっていくことが確認されています。しかし、このデータベースは動物行動学会だけではなく、広く自然史学一般にとっても有意義な物であると私たちは考えており、より学会横断的な方向に運営組織を強化して行きたいと考えています。

連絡先

この動物行動の映像データベースについての質問、問い合わせはethology@zoo.zool.kyoto-u.ac.jp までお願いします。このアドレスは運営組織宛であり、現在は帝京科学大学アニマルサイエンス学科の藪田慎司、京都女子大学の中田兼介もしくは大阪市自然史博の佐藤ミチコがお返事をさせていただく事になっています。